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マスター・ディスティラー・ブログ 第8号 ― スコッチウイスキーの樽リスト

David Hsieh

マスター・ディスティラー・ブログ 第8号 ― スコッチウイスキーの樽リスト

――SWAの樽規定を読み解く。「スコッチ」として熟成に使える樽と、「スピリッツ」としか表示できない樽の違いとは

著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト

本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP8〈Nearly a decade undercover, even the labels on the labels are wrong (Part I)〉をもとに再構成したものです。


スコッチ・ウイスキー協会(Scotch Whisky Association、以下SWA)は、スコッチウイスキーの定義を守る業界団体です。会員には、スコットランドの蒸留所やスピリッツ企業の大多数が含まれています。SWAの主要な役割の一つは、地理的表示として保護されている「Scotch Whisky」という名称をめぐる製造ルールを定め、維持することです。その規則の中でも、樽熟成に関する章はとても重要であり、同時に誤解されやすい部分でもあります。

規定上、スコッチウイスキーの熟成に使える樽は、かなり厳密に定められています。新樽を除けば、過去に特定のカテゴリーの飲料を入れていた樽だけが認められます。認められる樽は大きく三つのカテゴリーに分けられます。

一つ目はワイン樽です。テーブルワインに加え、ウイスキー愛好家にもなじみの深いシェリー、ポート、マデイラなどの酒精強化ワインも含まれます。二つ目はビール樽。三つ目はスピリッツ樽です。バーボン、ラム、ブランデー、テキーラなどを入れていた樽がこれにあたります。それぞれのカテゴリーにはさらに細かなルールがありますが、基本原則は明快です。この三つのいずれにも当てはまらないものは、原則としてSWAの規定上、スコッチの熟成には認められません。

なぜ、この三つなのか

SWAの考え方の根底にあるのは、予測可能で、由来をたどれる風味です。ワイン、ビール、スピリッツは、原料や製造工程が比較的安定しています。業界には長年のデータがあり、それらを入れていた樽が熟成中にウイスキーへどのような要素を与えるのか、おおよその見通しを立てることができます。

もし、アルコール飲料を入れたことのない樽、たとえばハニーシロップ樽やメープルシロップ樽などが認められれば、以前の内容物がウイスキーに与える影響は予測しにくくなります。管理もしにくくなり、一定の風味の範囲に収めることも難しくなります。その結果「Scotch Whisky」という名称が消費者に示している一貫性が、少しずつ揺らいでしまうのです。

樽の木材はオークでなければならない

規定の中で見落とされやすい条項の一つに、木材に関するものがあります。樽そのものがオーク材でなければならず、他の樹種は認められません。短い条文ですが、実際には見た目以上に広い線引きをしています。

日本を含む他のウイスキー産地では、栗、桜、アカシアなどの木材で熟成することも、もはや珍しくありません。近年、そうした代替材をめぐる実験的な動きはかなり活発になっています。しかしSWAの規定上、それらをスコッチ・シングルモルトに用いることはできません。

リスト外の樽を使うとどうなるのか

たとえばスコットランドの蒸留所が、熟成中のモルトスピリッツをハニーシロップ樽でフィニッシュしたとします。その場合、できあがった液体は、SWAの規定上、「Single Malt Scotch Whisky」として表示できません。販売するには、「Spirit」など、「Scotch Whisky」として保護された名称を使わない別のカテゴリーにする必要があります。

蒸留所にとって、それは価格面でも市場での位置づけでも、格下げを意味します。そのため、スコットランドのほとんどすべてのモルト蒸留所は、樽を使った実験を行う前に、計画が規定の線を越えないかどうか、SWAの最新ルールを確認します。

樽の供給計画には、長い視点が必要になる

新しい蒸留所が樽戦略を決めるときには、それぞれの樽が過去に何を入れていたのか、その履歴まで計画に組み込む必要があります。たとえばビール樽でウイスキーを熟成したい場合、多くの場合、あらかじめブルワリーと段取りを組まなければなりません。ウイスキー蒸留所が空樽を用意し、ブルワリーがそこに数週間から数か月ビールを入れます。その後、ビールを空けた樽が、ビール由来の個性をまとった状態で蒸留所へ戻ってくる、という流れです。

返ってきた樽を新鮮な状態で蒸留所に届けるには、物流と契約の枠組みがきちんと機能していなければなりません。ワイン樽も同じです。赤ワイン、白ワイン、シェリー、ポート、マデイラは、それぞれ異なる流通経路とコストで入ってきます。

熟成には少なくとも三年かかります。そして今日選んだ樽の質が本当の意味で見えてくるのは、五年後、十年後、あるいは二十年後かもしれません。だからこそ、新しい蒸留所は、計画段階からこうした選択をしておく必要があるのです。

リストの内側で行われる革新

近年、スコットランドの蒸留所では、樽をめぐる新しい試みの多くが、認められたリストの外側ではなく、その内側で行われています。たとえば、シェリー樽の産地を変える。バーボン樽のチャーの度合いを変える。最初にバーボン樽で熟成した後、別の種類の樽でフィニッシュする。そうした工夫です。

丹丘蒸留所の視点から見ると、SWAの規定は日本の蒸留所には及びません。スコットランドの伝統を広く受け継ぎながら日本で造られるウイスキーは、樽選びという点で、かなり大きな自由を持っています。

SWAの樽リストが本当に守っているものは、「Scotch Whisky」というカテゴリーの一貫性です。その一方で、このリストは、ウイスキーの可能性をさらに広げようとする蒸留所を、必然的に制限するものでもあります。つまり、両刃の剣なのです。

日本では、スコットランドの製造知識を受け継ぎながら、同じ厳格な樽規定には縛られない。そのことは、スコットランドのシステムの中で学んだ蒸留士にとって、日本のウイスキーづくりに関わる深い喜びの一つでもあります。


著者について

David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。

丹丘蒸留所について

丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。

出典

『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP8〈Nearly a decade undercover, even the labels on the labels are wrong (Part I)〉。

本記事で言及されている他の蒸留所、ブランド、生産者については、公に入手可能な情報および著者個人の観察に基づき、商業的な比較や評価ではなく、情報共有の趣旨で参照しています。これらの記述は、丹丘蒸留所の見解を示すものではありません。