丹丘蒸留所からの最新情報
――SWAの樽規定を読み解く。「スコッチ」として熟成に使える樽と、「スピリッツ」としか表示できない樽の違いとは 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト 本記事はポッドキャスト『Whisky for…

――SWAの樽規定を読み解く。「スコッチ」として熟成に使える樽と、「スピリッツ」としか表示できない樽の違いとは
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP8〈Nearly a decade undercover, even the labels on the labels are wrong (Part I)〉をもとに再構成したものです。
スコッチ・ウイスキー協会(Scotch Whisky Association、以下SWA)は、スコッチウイスキーの定義を守る業界団体です。会員には、スコットランドの蒸留所やスピリッツ企業の大多数が含まれています。SWAの主要な役割の一つは、地理的表示として保護されている「Scotch Whisky」という名称をめぐる製造ルールを定め、維持することです。その規則の中でも、樽熟成に関する章はとても重要であり、同時に誤解されやすい部分でもあります。
規定上、スコッチウイスキーの熟成に使える樽は、かなり厳密に定められています。新樽を除けば、過去に特定のカテゴリーの飲料を入れていた樽だけが認められます。認められる樽は大きく三つのカテゴリーに分けられます。
一つ目はワイン樽です。テーブルワインに加え、ウイスキー愛好家にもなじみの深いシェリー、ポート、マデイラなどの酒精強化ワインも含まれます。二つ目はビール樽。三つ目はスピリッツ樽です。バーボン、ラム、ブランデー、テキーラなどを入れていた樽がこれにあたります。それぞれのカテゴリーにはさらに細かなルールがありますが、基本原則は明快です。この三つのいずれにも当てはまらないものは、原則としてSWAの規定上、スコッチの熟成には認められません。
SWAの考え方の根底にあるのは、予測可能で、由来をたどれる風味です。ワイン、ビール、スピリッツは、原料や製造工程が比較的安定しています。業界には長年のデータがあり、それらを入れていた樽が熟成中にウイスキーへどのような要素を与えるのか、おおよその見通しを立てることができます。
もし、アルコール飲料を入れたことのない樽、たとえばハニーシロップ樽やメープルシロップ樽などが認められれば、以前の内容物がウイスキーに与える影響は予測しにくくなります。管理もしにくくなり、一定の風味の範囲に収めることも難しくなります。その結果「Scotch Whisky」という名称が消費者に示している一貫性が、少しずつ揺らいでしまうのです。
規定の中で見落とされやすい条項の一つに、木材に関するものがあります。樽そのものがオーク材でなければならず、他の樹種は認められません。短い条文ですが、実際には見た目以上に広い線引きをしています。
日本を含む他のウイスキー産地では、栗、桜、アカシアなどの木材で熟成することも、もはや珍しくありません。近年、そうした代替材をめぐる実験的な動きはかなり活発になっています。しかしSWAの規定上、それらをスコッチ・シングルモルトに用いることはできません。
たとえばスコットランドの蒸留所が、熟成中のモルトスピリッツをハニーシロップ樽でフィニッシュしたとします。その場合、できあがった液体は、SWAの規定上、「Single Malt Scotch Whisky」として表示できません。販売するには、「Spirit」など、「Scotch Whisky」として保護された名称を使わない別のカテゴリーにする必要があります。
蒸留所にとって、それは価格面でも市場での位置づけでも、格下げを意味します。そのため、スコットランドのほとんどすべてのモルト蒸留所は、樽を使った実験を行う前に、計画が規定の線を越えないかどうか、SWAの最新ルールを確認します。
新しい蒸留所が樽戦略を決めるときには、それぞれの樽が過去に何を入れていたのか、その履歴まで計画に組み込む必要があります。たとえばビール樽でウイスキーを熟成したい場合、多くの場合、あらかじめブルワリーと段取りを組まなければなりません。ウイスキー蒸留所が空樽を用意し、ブルワリーがそこに数週間から数か月ビールを入れます。その後、ビールを空けた樽が、ビール由来の個性をまとった状態で蒸留所へ戻ってくる、という流れです。
返ってきた樽を新鮮な状態で蒸留所に届けるには、物流と契約の枠組みがきちんと機能していなければなりません。ワイン樽も同じです。赤ワイン、白ワイン、シェリー、ポート、マデイラは、それぞれ異なる流通経路とコストで入ってきます。
熟成には少なくとも三年かかります。そして今日選んだ樽の質が本当の意味で見えてくるのは、五年後、十年後、あるいは二十年後かもしれません。だからこそ、新しい蒸留所は、計画段階からこうした選択をしておく必要があるのです。
近年、スコットランドの蒸留所では、樽をめぐる新しい試みの多くが、認められたリストの外側ではなく、その内側で行われています。たとえば、シェリー樽の産地を変える。バーボン樽のチャーの度合いを変える。最初にバーボン樽で熟成した後、別の種類の樽でフィニッシュする。そうした工夫です。
丹丘蒸留所の視点から見ると、SWAの規定は日本の蒸留所には及びません。スコットランドの伝統を広く受け継ぎながら日本で造られるウイスキーは、樽選びという点で、かなり大きな自由を持っています。
SWAの樽リストが本当に守っているものは、「Scotch Whisky」というカテゴリーの一貫性です。その一方で、このリストは、ウイスキーの可能性をさらに広げようとする蒸留所を、必然的に制限するものでもあります。つまり、両刃の剣なのです。
日本では、スコットランドの製造知識を受け継ぎながら、同じ厳格な樽規定には縛られない。そのことは、スコットランドのシステムの中で学んだ蒸留士にとって、日本のウイスキーづくりに関わる深い喜びの一つでもあります。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP8〈Nearly a decade undercover, even the labels on the labels are wrong (Part I)〉。
本記事で言及されている他の蒸留所、ブランド、生産者については、公に入手可能な情報および著者個人の観察に基づき、商業的な比較や評価ではなく、情報共有の趣旨で参照しています。これらの記述は、丹丘蒸留所の見解を示すものではありません。
――ローラーミルから2:7:1のグリスト比率まで。ミリングの工程が、ウイスキーづくりを静かに始動させる 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト 本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP7〈No…

――ローラーミルから2:7:1のグリスト比率まで。ミリングの工程が、ウイスキーづくりを静かに始動させる
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP7〈No sponsor from the small mill this time〉をもとに再構成したものです。
製麦所から蒸留所へ麦芽が届くと、最初に行われるのがミリング(粉砕)です。
糖化の前に麦芽をミリングする理由は、コーヒーを淹れる前にバリスタがコーヒー豆を挽く理由とよく似ています。粒を割ることで、糖化用の温水と触れる表面積が増え、麦芽の内側にある糖分や風味成分を効率よく引き出せるようになるからです。ミリングしていない、丸のままの粒をマッシュタンに入れても、外皮であるハスク(husk)が熱水と酵素の接触を妨げてしまいます。その結果、デンプンから糖への変換効率は大きく落ちます。
麦芽がミルに入る前に、まず取り除かなければならないものがあります。異物です。これは、どんな原料にも少なからず含まれています。収穫時に畑から小石が混ざることもありますし、輸送用コンテナから剥がれた金属片が荷の中に入り込むこともあります。まれに、製麦中の設備から小さな部品が落ちて混入することもあります。
蒸留所に原料が届くと、荷受け担当者は食品安全の観点から、コンテナの前回の洗浄記録を確認します。さらに、ミルの上部には振動ふるいや強力な磁石が設けられており、麦芽がミルに落ちる前に、小石や金属を物理的に取り除きます。この工程を雑に済ませると、石や金属片がミルに入った場合、軽くても半日ほど設備が止まり、重ければミルそのものが使えなくなることもあります。最悪の場合、空気中に舞う麦芽粉じんに金属が触れて火花が起きる危険もあります。だからこそ、ふるい分けは真剣に行われるのです。
ここで、日本酒造りとの違いを見ると分かりやすくなります。ウイスキーのミリングでは、後の工程で濾過層として使えるようにハスクを残しながら、麦芽を砕きます。一方、日本酒の精米では、米の外側を削り取ります。そこには、雑味の原因になりやすいタンパク質や脂質が多く含まれているため、中心部のより純粋なデンプンを残すのです。
この違いは、その後の工程の違いから生まれます。ウイスキーは後で蒸留されるため、望ましくない成分の多くはスチルの中で取り除かれます。重要なのは、糖化効率と穀物らしい個性です。一方、日本酒は発酵はしますが、蒸留はしません。そのため、原料米のきれいさは、精米の段階でつくっておく必要があります。
スコットランドのモルトウイスキー蒸留所の大多数では、ローラーミルが使われています。最も一般的なのは4本ローラーミル(four-roller mill)です。ローラーが2本ずつ、上下に2組重なった構造で、麦芽は上から投入されます。まず1組目のローラーを通ってハスクが開き、次に2組目のローラーを通って粒の中身が砕かれます。
それぞれのローラーの組では、片方のローラーが高速で回転し、もう片方は固定されているか、ゆっくり回転します。この速度差によってせん断力が生まれ、ハスクと粒の中身が分かれます。ローラーの表面には、多くの場合、タイヤの溝のような凹凸が刻まれています。これは麦芽をしっかりつかみ、ミリング効率を高めるためです。
では、なぜローラーは1組ではなく2組なのでしょうか。ひまわりの種を割るところを想像すると分かりやすいかもしれません。最初の動きで殻を開き、次の動きで中身を取り出す。1組目のローラーは、きれいにハスクを開く役割を担います。2組目のローラーは、ハスクから離れた中身を粉状に砕いていきます。最後には、ハスクと砕かれた中身が混ざり合った状態で下から出てきます。この混合物が、グリスト(grist)です。
グリストには、粒の大きさが異なる三つの要素が含まれています。粗いハスク(husk)、中くらいの大きさに割れた粒の部分であるグリッツ(grits)、そして非常に細かいフラワー(flour)です。
利用できるデンプンのほとんどが粒の中身やフラワーにあり、ハスクにはほとんど含まれていないのなら、ハスクをふるい分けて、グリッツとフラワーだけを糖化すればよいのではないか。そう考えたくなるかもしれません。
しかし、ハスクにはマッシュタンの中で重要な二つ目の役割があります。糖化の際にグリストを温水と混ぜると、ハスクは重いため、マッシュタン底部の金属メッシュ、つまりフォールスボトム(false bottom)の上に沈みます。そこで数センチの厚さの濾過層をつくります。糖化が終わり、麦汁がフォールスボトムを通って流れ出るとき、細かな粒子を捉え、麦汁を澄んだ状態に濾してくれるのが、このハスクの層です。そのため、ハスクは使える形で残しておかなければなりません。ミリング中に細かく砕けすぎないよう、ミルに入る直前の麦芽に霧状の水を吹きかける蒸留所もあります。湿ったハスクは丈夫になり、壊れにくくなるからです。
グリストに含まれるハスク、グリッツ、フラワーの割合は、蒸留所が特に注意して見るポイントの一つです。粗く挽きすぎると、粒が十分に開きません。糖化中に温水と接触する表面積が小さくなり、糖の抽出量が落ち、最終的なスピリッツの収量も下がります。
一方、細かく挽きすぎると、フラワーの割合が高くなります。フラワーが温水に触れると団子状に固まり、その内側は乾いたまま残ります。その結果、糖化効率はやはり落ちます。さらに、余分なフラワーはハスクの濾過層を通り抜け、フォールスボトムのメッシュの隙間を詰まらせ、麦汁の流れを悪くしてしまいます。
典型的なスコットランドのモルト蒸留所が目指す黄金比は、2:7:1です。つまり、ハスク20%、グリッツ70%、フラワー10%。この比率なら、フィルターとしての役割を果たすのに十分な量のハスクを残しつつ、糖を十分に抽出できる麦芽粒の中身とフラワーも確保できます。同時に、フラワーの割合を多くしすぎないことで、団子状の固まりや目詰まりも避けられます。実際にミリングされたグリストがこの比率に合っているかどうかを確認するために、蒸留所では、何段にも重なった木箱のような器具を使います。中には、目の細かさが段階的に異なるふるいが重ねられています。少量のグリストを一番上に入れ、ふたを閉め、全体を1分ほど振ります。その後、各層に残ったものの重さを量ると、実際のハスク、グリッツ、フラワーの割合が分かります。
すべてのバッチでこの検査を行うわけではありません。ただし、ミルがメンテナンスから戻ってきた直後や、再調整された直後には、設定を確認するために、この検査をもう一度行います。
蒸留所によっては、別の機械を使うこともあります。ハンマーミル(hammer mill)です。高速で回転するローターに、揺れ動く金属製のハンマーが取り付けられており、それが麦芽をスクリーンに叩きつけます。仕上がりの粒度は、スクリーンの目の大きさによって決まります。
ハンマーミルから出てくるグリストは、非常に細かく、均一です。ハスクも粒の中身も、ほとんど粉に近い状態まで砕かれます。このグリストでは、伝統的なマッシュタンの中でハスクの濾過層をつくることができません。そのため、麦汁を濾過するには、ビール醸造でも使われるプレート&フレーム式プレスのようなマッシュフィルター(mash filter)が必要になります。
ハンマーミルは、主にスコッチのグレーンウイスキー蒸留所、アメリカのバーボン蒸留所、そしてマッシュフィルターを前提に設備を組んだ一部のモルト蒸留所で見られます。北海道の丹丘蒸留所も、その一つです。
マッシュフィルターを前提に設備を組んでいくと、初期投資は大きくなり、より厳密な洗浄管理が求められます。その一方で、より細かいグリストと、マッシュフィルターによる加圧抽出を組み合わせることで、糖濃度が高く、麦芽由来の風味がより豊かな麦汁を得ることができます。そこから生まれるウイスキーの個性は、一般的なモルト蒸留所のものとは明らかに異なります。
ミリングされたグリストは、糖化が始まるまでグリストビン(grist bin)に貯蔵されます。ミリング後のグリストは空気に触れ、酸化しやすくなるため、長く保存することはできません。淹れる直前にコーヒー豆を挽いた方がよい、という話と原理はよく似ています。
小規模な蒸留所の中には、自前のミルを持たず、製麦所からあらかじめミリングされたグリストを購入するところもあります。しかし、長距離の輸送や保管時間によって鮮度は落ちます。この選択もまた、多くのことと同じように、コストと品質のバランスなのです。
麦芽がミルに入った瞬間から、グリストビンを出る瞬間までーーミリングという工程はすでに、静かに、けれど確かに、その後に生まれるウイスキーの大切な部分を形づくっているのです。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP7〈No sponsor from the small mill this time〉。
本記事で言及されている他の蒸留所、ブランド、生産者については、公に入手可能な情報および著者個人の観察に基づき、商業的な比較や評価ではなく、情報共有の趣旨で参照しています。これらの記述は、丹丘蒸留所の見解を示すものではありません。
――糖化、蒸留、樽詰め、すべてが同時に進む、蒸留士の一日 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト 本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP6〈Distilling,…

――糖化、蒸留、樽詰め、すべてが同時に進む、蒸留士の一日
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP6〈Distilling, nice〉をもとに再構成したものです。
スコッチウイスキーの蒸留所は、多くの場合、ハイランドの人里離れた場所や、海に浮かぶ島に建っています。建物の多くは白く塗られており、その理由についてはいくつかの説があります。
最も説得力があるのは、建築コストに関わるものです。外壁に塗られた石灰塗料は、湿気やカビを防ぐ役割を果たします。材料は安く、塗るのも簡単。そのため19世紀には、蒸留所だけでなく一般の住宅も、同じようにこの仕上げを採用していました。
島の蒸留所では、白い壁に蒸留所の名前を大きな黒い文字で描くことがよくありました。小さな港に入ってくる輸送船が、海の上から目的地を読み取れるようにするためです。麦芽や樽が、違う場所に届けられてしまわないようにするための目印でした。
もう一つの建築上の特徴は、パゴダ屋根(Pagoda Roof)です。キルン(乾燥塔)の上に設けられた、先細りの煙突屋根で、もともとは製麦棟の床からピートの煙と熱気を外へ逃がすためのものでした。
では、中に入ってみましょう。
多くの蒸留所では、まず最初に目に入るのはモルトビン(malt bin)です。
大きなステンレス製の給水塔のような姿をしています。製麦所から届いた乾燥麦芽は、荷受け場からモルトビンの上部へ運ばれ、そこから中へ落とし込まれて貯蔵されます。
その隣にあるのがミル(mill)です。ミルは麦芽を粉砕し、糖化に適した粒度のグリスト(grist)にします。
続いて現れるのが、マッシュタン(mash tun)。内部にレーキアームを備えた大きな鋳鉄製の釜で、グリストと温水を混ぜ合わせながら、デンプンを発酵可能な糖へと変えていきます。
マッシュタンの向こう側には、発酵室があります。そこに並んでいるのがウォッシュバック(washback)です。伝統的な木製のものもあれば、現代的なステンレス製のものもあります。麦汁と酵母は、この中で数十時間をかけて発酵します。
発酵中のウォッシュバックからは、大量の二酸化炭素が発生します。匂いは鋭く、力強く、初めて訪れた人は思わず後ずさりすることもあります。
さらに奥へ進むと、蒸留所を最も象徴する部屋にたどり着きます。スティルハウス(still house)です。
中央には、背の高い銅製のポットスチルが1組、あるいは数組、立っています。その外側は、深みのある金色です。発酵を終えたウォッシュは、スチルの中で蒸気によって加熱されます。アルコールを含んだ蒸気はスワンネックを上り、ラインアーム(lyne arm)を通ってコンデンサーへ進み、反対側から無色透明の液体となって流れ出します。これがニューメイクスピリッツ(new make spirit)です。オークに出会う前の、ウイスキーの姿です。
加熱が続くため、スティルハウスは蒸留所の中でも特に暖かい場所になります。外気温が0℃の冬の日でも、室内は20℃から30℃になることがあります。
一方で、まったく違う空気をまとっているのがウェアハウス(warehouse)です。中は薄暗く、気温は外より10度ほど低いこともあります。冬には、0℃近くまで下がることもあります。
ウェアハウスには、主に三つの種類があります。
一つ目は、伝統的なダンネージ式ウェアハウス(Dunnage warehouse)。土の床に木製のラックを組み、樽を横に寝かせて2段、または3段に積みます。天井は低く保たれています。
二つ目は、ラック式ウェアハウス(Racked warehouse)です。木製のラックの代わりに鉄製のラックを使い、樽を何層にも高く積み上げます。1平方メートルあたりの収容量は、ダンネージ式より大きくなります。
三つ目は、パレタイズ式ウェアハウス(Palletised warehouse)です。樽を立てた状態でパレットに固定し、フォークリフトで何層にも積み上げます。床面積を最も効率よく使う方式です。
蒸留所のレイアウトが見えてくると、蒸留士の一日も想像しやすくなります。
蒸留所での主な作業は、大きく三つに分けられます。糖化、蒸留、樽詰めです。
それぞれ、マッシュタンとウォッシュバック、スチル、そして樽詰め場(filling store)に対応しています。
蒸留士はたいてい、その日に達成すべき作業目標を持って出勤します。糖化を1回終える。蒸留を1回、あるいは2回終える。数本、場合によっては十数本の樽詰めを行う。
ただし、これらの作業は順番に進むわけではありません。糖化が終わってから蒸留が始まり、蒸留が終わってから樽詰めをする、という単純な流れではないのです。
実際には、すべてが同時に走っています。糖化、蒸留、樽詰めは、同じシフトの中で絶えず重なり合います。そのため蒸留士は、一日中、部屋から部屋へと移動し続けます。終業時には、歩数計が2万歩から3万歩を示すことも珍しくありません。
半自動化された一般的な蒸留所を例に、一日の流れを見てみましょう。
蒸留士はまず、糖化を開始します。温水と粉砕したグリストをマッシュタンに入れます。同時に、前のバッチで発酵を終えたウォッシュをウォッシュバックからスチルへ移し、蒸気を入れて蒸留を始めます。
スチルが温まるのを待つ間に、空になったばかりのウォッシュバックを洗浄します。
やがてニューメイクが流れ始めると、蒸留士はアルコール度数と時間を見ながら、フォアショッツ、ミドルカット、フェインツを切り分けていきます。カットは分単位で判断しなければならず、腰に付けた手動タイマーで時間を確認します。
その一方で、マッシュタンからは一番麦汁が流れ出します。これを冷却してウォッシュバックへ送り、続いて2回目の温水をマッシュタンに入れます。二番麦汁を取り終えると、今度は3回目の温水を加えます。この3回目の温水はホットリカータンク(hot liquor tank)に回収し、次回の糖化に使うために取っておきます。
そして少しでも合間ができれば、蒸留士は樽詰め場へ向かい、ニューメイクを樽へ移す作業を進めます。
シフトの終わりには、マッシュタンとその周辺の作業スペースを徹底的に洗います。残った糖分がショウジョウバエを呼び寄せないようにするためです。ボイラーを止め、次の担当者へ作業を引き継いで、一日が終わります。
これほど密度の高い一日を支えているのは、蒸留士が身につけている、少数の道具です。どれも特別に派手なものではありませんが、現場では欠かせないものばかりです。
まず必要なのは、ライトです。スチルの内部を点検する。モルトビンの残量を確認する。容器がきちんと空になっているかを見る。こうした確認には、ライトが欠かせません。冬の朝や、遅い時間に仕事を終えた帰り道、蒸留所の周囲に街灯がない場合にも、そのライトが足元を照らしてくれます。
次にナイフ。主に酵母の袋を開けたり、漂白剤のドラム缶の封を切ったりするために使います。瓶詰め室で梱包テープを切ることもあります。
マーカーペン、ボールペン、ノートも重要です。ノートは、引き継ぎ事項やその日の工程記録を書くためのものです。マーカーペンには、はっきりとした役割があります。ウォッシュバックに酵母を投入するたびに、空になった酵母袋へ印を付けるのです。
一日の終わりに、印の付いた袋の数を数えれば、すべてのウォッシュバックに酵母が入ったかどうかを確認できます。昔ながらの方法ですが、自動化されたシステムでは見落としがちなミスを防ぐ、とてもよくできた仕組みです。
時計も欠かせません。腕時計の場合もあれば、懐中時計の場合もあります。
蒸留所の設備は、タイマーが付いていないものも多くあります。スピリットランのカットポイント、スチルが満たされるまでの時間、樽に詰める速度。こうした時間は、蒸留士が自分で管理します。蒸留士の頭の中では、たいてい複数のタイマーが同時に動いています。
樽を扱うためには、丈夫な手袋も必要です。シェリーシーズニングされた満量の樽は、400キロから500キロほどの重さになります。樽の縁には粗いささくれがあり、素手でつかめばすぐに手を切ってしまいます。手袋をしていても、ときにはささくれが突き抜けてくることがあります。
そしてブーツです。防水で、滑りにくい靴底を持ち、つま先と中底には鋼鉄が入っています。防水性が必要なのは、蒸留所の床には水たまりや洗浄後の排水がつきものだからです。鋼鉄が入っているのは、転がる樽から足を守るため。樽は、見た目よりもはるかに重いのです。
こうした一つ一つを重ね合わせると、ウイスキー蒸留所の本当の姿が見えてきます。
そこは、観光のための美しい建物である以前に、工程とリズムによって動き続ける、生きた製造現場なのです。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP6〈Distilling, nice〉。
本記事で言及されている他の蒸留所、ブランド、生産者については、公に入手可能な情報および著者個人の観察に基づき、商業的な比較や評価ではなく、情報共有の趣旨で参照しています。これらの記述は、丹丘蒸留所の見解を示すものではありません。
ビール用麦芽とウイスキー用麦芽は、どこで道を分かつのか ――酵素をどう残すかを左右する乾燥工程「キルニング」を、蒸留家の視点から見ていきます。 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト…

ビール用麦芽とウイスキー用麦芽は、どこで道を分かつのか ――酵素をどう残すかを左右する乾燥工程「キルニング」を、蒸留家の視点から見ていきます。
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP5〈Peat and kilning, Part II〉(2023年3月、スコットランド・ハイランド地方にて収録)をもとに再構成したものです。
蒸留所はなぜ、発芽したばかりのグリーンモルトをすぐに乾燥させて、発芽を止めなければならないのでしょうか。
理由は三つあります。第一に、発芽が進みすぎると、穀粒の中のデンプンが麦芽自身の代謝によって少しずつ使われてしまいます。これは本来、蒸留所が発酵のために必要とするデンプンです。
第二に、製麦の過程で目覚めた酵素は、放っておけば働き続け、代謝とともにデンプンを消費していきます。
第三に、製麦環境は湿度が高いため、時間がたつほど微生物が繁殖しやすくなります。その状態で置かれる時間が長くなるほど、汚染や腐敗のリスクは高まります。
つまり蒸留所の仕事は、酵素のバランスが最もよい瞬間に“一時停止ボタン”を押すこと。そのために最も有効な方法が、麦芽を乾燥させることなのです。
初期の乾燥方法は、グリーンモルトを太陽の下に広げるというものでした。水分が下がれば、発芽は止まります。ただし、スコットランドでは気象条件が大きな問題となります。日照時間は限られ、曇りや雨も多い。十分に、そして早く乾燥できなければ、麦芽は発芽を続け、最後にはデンプンを使い果たしてしまいます。
こうした制約から生まれたのが、キルン(乾燥塔)でした。キルンは炉のような構造を持ち、熱源の上に細かな穴の開いた床(多孔床)を設け、その上に麦芽を広げます。下ではピートやコークスを燃やし、熱い上昇気流を起こします。目標の水分量に達するまで、麦芽の層は数時間おきに手作業で返されました。
その構造は後に改良されていきます。キルンの床はより高い位置に設けられ、煙突は背の高い、先細りの塔の形となっていきました。建物の内側と外側の温度差が上昇気流を引き出す助けとなり、乾燥の効率は大きく向上しました。この先細りの煙突屋根、いわゆるパゴダ屋根(Pagoda Roof)は、やがてスコッチウイスキー蒸留所を象徴する建築要素となります。今日では、新しく建てられた蒸留所の多くが自社で麦芽を乾燥していないにもかかわらず、視覚的な記号としてパゴダ型のシルエットを取り入れています。台湾のカバラン(Kavalan)の建物にも、同じ建築的なモチーフを見ることができます。
現在、商業的に使われている設備はシングルフロア・キルン(Single-Floor Kiln)と呼ばれます。これは、伝統的な2層式の構造とは異なるものです。現代の設計では、乾燥工程を1枚の床に集約し、下から麦芽層へ熱風を通します。さらに機械式のアームが穀粒を返すのを助けます。麦芽の層は70〜90cmほどの厚さまで積み上げることができ、1平方メートルあたり約500kgの麦芽を処理できます。乾燥にかかる時間も、全体で12〜48時間ほどに短縮されています。
キルニングは、大きく二つの段階に分かれます。第一段階は自由乾燥段階(Free Drying Phase)で、温度は50〜70℃に設定されます。開始時点では麦芽はまだ湿っており、内部の酵素も不安定な状態にあります。ここで急に温度を上げると、酵素は壊れてしまいます。そのため、この段階ではあえて低めの温度を保ち、水分をおよそ40%から12%前後まで下げていきます。
水分が12%ほどになると、外側の麦殻はかなり乾いています。しかし、穀粒の内側、デンプンを含む部分には、まだ多くの水分が閉じ込められています。この水分は抜けにくく、取り除くにはより高い温度とエネルギーが必要になります。この時点では麦芽も比較的乾燥し、酵素も熱に対してある程度強くなっています。そのため、温度を75〜80℃まで上げることができます。これが減率乾燥段階(Falling Rate Phase)です。この段階では、送風量を下げることができ、外気を新たに加熱せずに、循環させた空気で運転することもできます。ここから水分を12%から最終的に4〜4.5%まで下げます。
これが、ウイスキー用麦芽のキルニングの基本的な流れです。最初は低温で始め、徐々に温度を上げる。目的は、水分を下げながら、できるだけ酵素を守ることにあります。
ビール用麦芽では、メイラード反応を進行させるため、温度をさらに85〜100℃まで上げる工程を加えることがあります。高温処理によって、焦げ感やチョコレートを思わせる、より深い風味が生まれます。このような麦芽はチョコレートモルト(Chocolate Malt)と呼ばれます。
一方、ウイスキー用麦芽では、通常この工程までは進めません。理由は単純です。熱をかけすぎると、酵素が壊れてしまうからです。蒸留所が麦芽に求めているのは、風味ではなく酵素です。また、キルニングで生まれた風味が、蒸留を経てそのまま残るとは限りません。
近年では、フレーバードモルト、つまり風味を持たせた麦芽を試す蒸留所も出てきています。ハイランド地方のグレンモーレンジィ(Glenmorangie)は、レシピの一部に、より強く乾燥させたチョコレート系のモルトを使い、コーヒーやチョコレートを感じさせる原酒を生み出しています。エディンバラのホリールード蒸留所(Holyrood Distillery)は小規模ながら、実験的な取り組みによって知られる蒸留所で、さまざまな種類のフレーバードモルトを継続的に試しています。こうした方法は、業界全体から見ればまだ少数派ですが、少しずつ広がりを見せています。
では、キルニングを完全に省き、グリーンモルトのままウイスキーを造ることはできるのでしょうか。原理的には可能です。グリーンモルトは酵素活性が最も高いため、糖化の段階で、より多くの糖を得られる可能性があります。
ただし、そこで問題となるのは、物流です。キルニングしていない麦芽は発芽を続けるため、長く保存できません。製麦所(モルティング場)から蒸留所までの移動がごく短い場合を除けば、輸送中に腐敗しやすいのです。
多くのスコッチ蒸留所は、アクセスのよい場所にあるわけではありません。輸送にかかる時間だけを考えても、麦芽の状態を管理することは難しくなります。そのため、この方法が現実的に使えるのは、製麦所のすぐ隣にある蒸留所にほぼ限られます。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP5〈Peat and kilning, Part II〉、2023年3月、スコットランド・ハイランド地方にて収録。
本記事で言及している他の蒸留所、ブランド、生産者については、公開情報および著者個人の見聞に基づき、情報共有の趣旨で参照しています。商業的な比較や評価を目的とするものではありません。また、これらの記述は丹丘蒸留所の見解を示すものではありません。
それが何であり、どこから来て、なぜウイスキーに行き着くのか ――炭素を豊富に含んだ堆積物の化学、世界中に広がるピート湿原の地理、そして私たちを惹きつける「ピート香」の本質について紐解いていきます。 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky…

それが何であり、どこから来て、なぜウイスキーに行き着くのか ――炭素を豊富に含んだ堆積物の化学、世界中に広がるピート湿原の地理、そして私たちを惹きつける「ピート香」の本質について紐解いていきます。
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP4〈The Science of Peat〉(2023年2月、スコットランド・ハイランド地方にて収録)をもとに再構成したものです。
ピート(泥炭)は、泥であると同時に石炭でもあります。
古代の植物の遺骸が幾重にも積み重なり、長い年月をかけて形成されたものです。酸素の乏しい環境下、一般的には「ボグ(泥炭湿原)」と呼ばれる場所で植物が枯れると、その組織に含まれる炭素は酸素と結びついて二酸化炭素を生成することができません。そのため、植物の残骸はその場でゆっくりと炭化していきます。十分に長い堆積期間と適切な圧力・温度条件がそろえば、最終的には石炭になります。
しかし、シルト(沈泥)や砂が混ざり、水はけが悪く常に水分を多く含む環境では事情が異なります。そこで形成される堆積物は、石炭より炭素含有量が低く、鉱物質を含んでいます。この湿った「半分泥で、半分石炭」のような物質こそが、私たちが「ピート」と呼んでいるものです。
ウイスキー愛好家にとって最も馴染み深く、真っ先に名前が挙がるピート湿原といえば、やはりアイラ島でしょう。しかし、スコットランド以外にもピートは広く分布しています。イングランド、ウェールズ、アイルランド、北欧諸国、ロシア、アメリカ、カナダ、インドネシア、さらには北朝鮮にいたるまで、いずれも豊富なピートの埋蔵量を有しています。以前、アラン島のラグ蒸留所を訪れた際、ビジターセンターの壁に世界のピート地帯を示した地図が描かれているのを目にしましたが、その分布の広さには驚かされました。
ピートとウイスキーの結びつきは、かつてのハイランド地方の素朴な暮らしに根ざしています。この地域の大部分では、低木や草地が広がるばかりで、薪に使えるような木はほとんど育ちません。そのため、薪を探しまわるよりも、地面からピートを切り出すほうがはるかに現実的だったのです。乾燥させたピートは、長い間、多くの家庭で最も一般的な燃料として使われていました。
ここから、一つの興味深い考え方が浮かび上がります。
ウイスキーのピート香が、一部の愛好家にとって、なぜこれほど親しみやすく、さらには心地よく感じられるのか。その理由は、スピリッツそのものよりも、人々が受け継いできた記憶にあるのかもしれません。かつて、ピートを燃料に暖を取り、料理をすることが日常的であった地域では、ピートの燃える匂いは「家に帰ること」「暖かさ」「食事」を意味するものだったでしょう。
この仮説を厳密に検証することはできませんが、一つの興味深い視点を与えてくれます。つまり、ピートの匂いは、ウイスキーの香りとして知られるようになるよりもはるか以前から、人々の暮らしや文化に根付いた香りとして存在していたのです。
ピートの塊そのものには、ほとんど匂いがありません。多くの蒸留所の見学ツアーでは、手にとって観察できるようにとピートの塊が見学者に回覧されますが、感じられるとしても、せいぜいかすかな土の香り程度でしょう。つまり、一部のウイスキーに感じられる「ピート香」は、ピートそのものではなく、ピートを燃焼させた際に放出される化合物――主としてフェノール類――に由来しているのです。
「当蒸留所ではピーテッドモルトは使用していませんが、仕込み水はピート層を通って流れてくるため黄色みを帯びています。そのため、私たちのウイスキーにはほのかなピート香があります。」このような説明を耳にすることがあります。しかし、この理屈は成り立ちません。
第一に、地下のピート層は数万年という長い年月をかけて堆積したものです。もし水が毎日のようにそこから風味成分を溶かし出しているのであれば、それらの成分はとっくに洗い流されてしまっているはずです。
第二に、ハイランド地方の水源の多くが実際に黄色みを帯びているのは事実です。私たちの蒸留所の水も例外ではありません(※1)。けれど、その水で紅茶を淹れたからといって「ピートティー」になるわけではありません。
もう一つの説明として、よく樽(カスク)の影響が挙げられます。トーストされたオーク樽は、それ自体がほのかなスモーキーさ、コーヒーのようなニュアンスを持っています。また、長期熟成によってそうした香りが前面に現れることがあり、それを「ピーティネス」と受け取る飲み手もいます。
しかし、それは知覚上の置き換えに過ぎず、本物のピートに由来するフェノール化合物とは異なります。ピート由来の個性を正しくたどるのであれば、やはりピートを「燃焼」させるプロセスに立ち返らなければなりません。
伝統的にピートは手作業で採掘されてきました。細長い長方形の専用シャベルで、湿原から帯状に切り出し、その後、自然乾燥させてから利用します。手作業で切り出されたピートは、細長い長方形のレンガ状になります。現在では、こうした手作業に時間を割ける採掘者はごくわずかで、多くの現場では油圧ショベルなどの重機が用いられています。そのため、採掘されるピートは不規則な塊状になります。ピートの切り出しシーズンは春から秋にかけてです。冬のピートは水分が多すぎて、凍結しやすいため、取り扱いが難しいのです。
ピート全体の用途を見ると、ウイスキーに使われる割合はごくわずかです。採掘されたピートのおよそ99%は、園芸や農業に利用されています。ピートは酸性で腐植質を豊富に含むため、アルカリ性土壌の改良や、ブルーベリーのような酸性土壌を好む作物の栽培に適しています。一方、ウイスキー用麦芽の焙燥に使われるピートは、世界全体の年間採掘量の1%にも満たないと考えられています。現在確認されている埋蔵量から見ても、今後1,000年から2,000年の間に枯渇する心配はないと推定されています。
しかし「地下に十分な量が存在すること」と「採掘しても問題がないこと」は同じではありません。
ピートに含まれる腐植質には豊富な有機物が含まれており、微生物や小さな生物が生息しています。ピート湿原それ自体がひとつの独立した生態系であり、その生物多様性は、単なる「トン数」という数字に還元できるものではありません。ピート採掘をめぐって本当に問われるべきなのは、地域の生態系のバランスにどのような影響を及ぼすのかという点です。近年、スコットランドでも、ピート採掘に関する適切な規制はどうあるべきかという議論が始まっています。
※1)本記事は2023年収録のポッドキャストをもとに再構成したものです。ここでの「私たちの蒸留所」は著者が当時勤務していたスコットランドの蒸留所を指しています。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP4〈The Science of Peat〉、2023年2月、スコットランド・ハイランド地方にて収録。
本記事に登場する他の蒸留所、ブランド、生産者に関する記述は、公開情報および著者自身の見聞に基づき、情報共有を目的として紹介したものです。商業的な比較や評価を意図するものではなく、それらに関する見解は丹丘蒸留所の公式な立場を示すものではありません。
なぜ大麦は発芽しなければウイスキーになれないのか。そしてフロアモルティングは本当に風味を変えるのか――蒸留士の視点から読み解く製麦工程 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト 本記事はポッドキャスト『Whisky…

なぜ大麦は発芽しなければウイスキーになれないのか。そしてフロアモルティングは本当に風味を変えるのか――蒸留士の視点から読み解く製麦工程
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』EP3〈Sprouted〉(2023年2月、スコットランドにて収録)をもとに再構成したものです。
ウイスキーの原料は大麦です。しかし、蒸留所に届くのは畑から収穫されたままの大麦ではありません。製麦(モルティング)を経た大麦です。
実のところ、大麦をそのままの状態で使用することはできません――その理由は、大麦の穀粒の内側に隠されている仕組みにあります。
第一の理由は「酵素」。生の大麦に含まれるデンプンは、そのままではアルコール発酵させることができません。まずは発酵可能な「糖」に変換する必要があります。その変換を担うのが、大麦自身が発芽を始める際に自ら放出する「糖化酵素(Diastatic Enzymes)」です。この意味において、製麦とは、眠っている酵素を意図的に目覚めさせる工程だと言えます。
第二の理由は、あまり語られることがありませんが、同じくらい重要なものです。 発芽が始まると、もう一つの酵素群「タンパク質分解酵素(Proteolytic Enzymes)」も活性化します。これらの酵素は穀粒の細胞壁に働きかけます。これにより、ガラスのように硬かった大麦の麦粒(barley kernel)は、もろく砕けやすい状態となり、糖化(マッシング)に適した状態のグリストへと粉砕できるようになります。この構造的な変化がなければ、粉砕も糖化も最初の段階で行き詰まってしまうでしょう。
収穫された大麦は、長期保存のために水分含有率約12%の状態で保管されています。しかし発芽を開始するには、その水分含有率を約45〜46%まで引き上げなければなりません。この工程を「浸麦」と呼びます。
最も古い方法では、大麦を入れた袋を川へ沈めていました。けれども、これでは発芽率は約50%程度にしかなりませんでした。大麦は呼吸しています。水の中に浸されたままの状態が続くと、穀粒はエタノール、乳酸、二酸化炭素を生成し、自らを窒息させてしまうのです。 そのため現代の製麦工場では、「浸漬→排水→再浸漬」を繰り返します。全体でおよそ40〜50時間をかけて、段階的に水を吸収させながら、その間に代謝によって生じたガスを逃していくのです。
発芽工程に入ると、製麦担当者は3つの要素を同時に管理しなければなりません。 まず水分含有率。それは45〜46%に維持する必要があります。50%を超えると穀粒は溺れてしまいます。 次に温度。20℃未満に保たなければなりません。これを超えると発芽が不均一になり、微生物による汚染も発生しやすくなります。 そして換気です。発芽は発熱反応であるため、熱を逃がさなければ局所的な高温部分が発生してしまいます。
最初の製麦方法は「フロアモルティング」でした。浸漬を終えた大麦を製麦棟の床に約15センチの厚さで広げ、数時間ごとにシャベルで切り返します。これは熱を逃がし、根が絡み合うのを防ぐためです。この作業は非常に重労働でした。常に同じ側から体を使って切り返していたため、肩を痛めることもありました。「モンキーショルダー(Monkey Shoulder)」という呼び名は、この肩の障害に由来しています。
その後、ガラン(Galland)というフランス人が別の方式を考案しました。冷却水を通す金属製の長い槽と強制換気設備を組み合わせることで、熱の放散と切り返しの問題を同時に解決。さらに彼の弟子であるサラディン(Saladin)は、このアイデアを発展させ、槽に沿って移動する機械式アームを取り付け、穀粒層を自動で切り返せるようにしたのです。こうしてサラディン方式が誕生しました。
その後、製麦設備は長方形の槽から「円形発芽槽」へと発展していきます。円形発芽槽では、中央の回転軸から伸びた切り返しレーキ(熊手状の攪拌装置)が穀粒層を自動的に切り返します。さらに発展したのが「ドラム式発芽装置」。直径数メートルの金属製ドラムがゆっくり回転し、その内部で穀粒が転がります。換気設備によって装置全体の温度も管理されます。
現在の大規模な製麦工場では、主に円形発芽槽とドラム式発芽装置が採用されています。
現在、多くのスコッチ蒸留所は、専門の麦芽製造業者(モルスター)から麦芽を購入しています。ベアーズ(Bairds)、クリスプ(Crisp)、シンプソンズ(Simpsons)などはその代表例です。けれども、ごく少数の蒸留所はいまも自社のフロアモルティング設備を維持しています。スプリングバンク、ボウモア、ハイランドパーク、ラフロイグ、キルホーマンなどです。これらの蒸留所が、いずれもピーテッドウイスキーで知られていることは、おそらく偶然ではないでしょう。
蒸留家の視点から見ると、この問いには率直に答えるべきでしょう。
フロアモルティング、サラディン方式、ドラム方式の違いは、最終的なウイスキーの風味として識別できるのでしょうか?
実際には、その差はごくわずかです。最終的な麦芽の品質を決定するのは、主として品種、含水率の推移、発芽の均一性、そして焙燥時の条件です。
穀粒層の切り返し方法が品質に与える影響は、それらに比べればはるかに小さいと言えます。 フロアモルティングが今日まで残っているのは、測定可能なほど異なるウイスキーを生み出すからではありません。むしろそれは、蒸留文化の一部を受け継ぐためです。そこには、よりゆっくりとした、人の手による仕事のリズムへの敬意が込められています。何らかの風味を与えるからではないのです。
言い換えれば、ラベルに「伝統的なフロアモルティング」と記されていたなら、それは伝統的な製法が受け継がれていることを意味します。しかし、必ずしも伝統的な風味が受け継がれていることを意味するわけではありません。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP3〈Sprouted〉、2023年2月、スコットランドにて収録。ポッドキャスト本編:youtu.be/j_VzIgkJVHc
スコッチシングルモルトを支える4つの物理的事実——デンプン、ハスク(麦殻)、酵素から、一枚の納品書とPSYという数字まで——蒸留士が原料を選ぶ本当の理由とは。 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト…

スコッチシングルモルトを支える4つの物理的事実——デンプン、ハスク(麦殻)、酵素から、一枚の納品書とPSYという数字まで——蒸留士が原料を選ぶ本当の理由とは。
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』 EP2〈大麦であって、小麦ではない!〉(2023年2月、スコットランドにて収録)をもとに再構成したものです。
ウイスキーの原料として、なぜ大麦が使われるのか。この問いは、しばしば説明の必要すらないものとして扱われます。「スコットランドでは何世紀にもわたって大麦が使われてきた。その伝統が今日まで続いているだけだ。」そんな説明を耳にすることもあるでしょう。
しかし蒸留士の視点から見ると、その話はそれほどロマンチックではありません。実際には、もっと興味深い話なのです。
大麦がスコッチシングルモルトの中心にあるのは、他の一般的な穀物にはない4つの優れた利点を同時に備えているからです。
「スコッチシングルモルトウイスキー」という言葉は、4つの単語すべてに明確な定義があります。
まず「スコッチ」とは、スコットランドで蒸留され、さらにスコットランドで最低3年以上熟成されたスピリッツであることを意味します。
「シングル」は、穀物の品種やヴィンテージを指すのではなく、単一の蒸留所で造られたことを意味します。
そして最も重要なのが「モルト」です。原料は100%大麦麦芽でなければならず、蒸留は銅製のポットスチルを用い、バッチ蒸留で行わなければなりません。
たとえ原料が大麦であったとしても、連続式蒸留器やハイブリッド蒸留器を使用した場合、法律上はシングルグレーンウイスキー(Single Grain Whisky)と表示しなければなりません。
つまり「シングルモルト」という呼称は、原料・設備・製法という3つの条件によって成り立っています。
そこで、ひとつの素朴な疑問が浮かびます。蒸留士が選ぶことができるさまざまな穀物の中で、なぜ大麦なのでしょうか?
蒸留所の現場から見れば、スコッチウイスキーの主原料が大麦である理由は、伝統よりもむしろ物理的な特性にあります。
大麦は、次の4つの条件を同時に満たしているのです。
第一に、デンプン含有量が高いこと。大麦のデンプン含有量はおよそ58〜65%で、小麦やオーツ麦を上回ります。デンプンは糖化の原料であり、デンプンが多いほど多くの糖を得ることができるため、最終的に蒸留できるアルコール量も増えます。
第二に、ハスク(麦殻)が天然のろ過層として機能すること。大麦を粉砕して糖化すると、ハスクはマッシュタンの底に沈み、自然なフィルター層を形成します。この層によって麦汁は澄んだ状態で流れ出し、後工程の配管を詰まらせることもありません。もしハスクがなければ、糖化工程そのものがはるかに扱いにくいものになります。
第三に、糊化温度が低いこと。大麦のデンプンはおよそ60〜70℃で糊化します。この温度帯は、一般的なマッシュタンで使用される温水の範囲内です。一方、トウモロコシや米は90〜100℃程度で糊化するため、糖化工程に入る前に高温・高圧で加熱処理しなければなりません。
第四に、大麦麦芽は豊富な酵素を自ら持っていること。麦芽化された大麦には、自身のデンプンを発酵可能な糖へ変えるだけでなく、他の穀物のデンプンまで糖化できるだけの酵素が含まれています。
たとえば一般的なグレーンウイスキーのレシピでは、トウモロコシ 50%、小麦 30%、大麦麦芽 20%という構成になることがあります。
そして、その20%の大麦麦芽だけで、全体を糖化させるのに十分な酵素を供給しているのです。言い換えれば、大麦を取り除けば、システム全体はその化学的な鍵を失ってしまいます。
── 一枚の納品書とPSYという数字
実際に蒸留所に入ってみると、麦芽の選定は「テロワール」や「品種」といった言葉から想像されるほどロマンチックなものではありません。
現実には、大多数のスコットランドの蒸留所は自ら大麦を製麦しているわけではなく、専門のモルティング会社から製麦済みの麦芽を購入しています。そのため、蒸留所の受け入れ口に届くのは、多くの場合、品種名と数量が記載された一枚の納品書。それ以外の情報はほとんどありません。
そして実際に購入判断を左右するのは、PSY(Predicted Spirit Yield/予測アルコール収量)と呼ばれる数値です。
これは一般に、「大麦1トンから何リットルの純アルコールが得られるか」を示す指標で、LPA/t(Litres of Pure Alcohol per tonne)で表されます。現代のスコットランド蒸留所において、一つの目安となるのは400LPA/tです。
現在主流となっているコンチェルト(Concerto)やローリエイト(Laureate)といった品種は、安定して420LPA/tを超えています。反対に、PSYが基準に達しない品種は、どれほど名の知られた品種であっても、大規模な蒸留所の原料として採用されることはほとんどありません。
古い大麦品種のなかで、最もよく名前が挙がるものの一つがゴールデンプロミス(Golden Promise)です。1960年代から1980年代にかけて、スコットランドで広く使われていた代表的な品種です。そのアルコール収量は1トンあたりおよそ350〜370LPA。現在の基準から見れば決して高い数字ではありません。
しかし、その歴史的な存在感は大きく、近年では「復刻」や「テロワール」を掲げて契約栽培を行い、この品種を再び使用する小規模蒸留所も現れています。
ただし蒸留士の立場から見ると、「昔の品種を使えば、昔の風味が戻る」という考え方については、もう少し慎重に考える必要があります。かつてのウイスキーの風味は、大麦だけで決まっていたわけではありません。
酵母の種類。蒸留器の形状。樽の由来。熟成中の気候。こうした要素は、この数十年の間にすべて変化しています。
たとえゴールデンプロミスを当時と同じように栽培したとしても、そこから生まれるスピリッツが1970年代のウイスキーそのものの味になる可能性は極めて低いでしょう。
言い換えれば、穀物はより大きなシステムを構成する、一つの変数に過ぎないのです。
では、こうした古い品種を研究することに意味はあるのでしょうか?
私は、意味はあると思います。ただし、その価値は別のところにあります。
古い品種が主流の座から退いた理由の多くは、その弱さにありました。病害への耐性が低い、収量が安定しない、天候の影響を受けやすい。そうした理由から、より生産性の高い新しい品種へと置き換えられていったのです。
しかし近年、気候変動や大規模な単一栽培が進むなかで、農業研究者たちは再びこうした古い品種に注目し始めています。
なぜなら、それらの品種は何世紀にもわたり、干ばつ、湿潤な環境、寒冷な気候、病害といった条件にさらされながら生き残ってきたからです。
その過程で獲得した適応能力は、現代の育種にとって有用な資源になり得ます。
ゴールデンプロミス(Golden Promise)や、さらに古いシュヴァリエ(Chevalier)のような品種を振り返るとき、本当に価値があるのは、かつての風味を再現することではないのかもしれません。むしろ、その遺伝子そのものにこそ価値があるのです。
つまり、未来の大麦をより安定させ、より過酷な気候に耐えられるようにする。そうした特性を見つけ出すことこそが、これらの古い品種を研究する本当の意義なのではないでしょうか。
時間を主要な原料として扱う産業にとって、長い視点で見るべき方向とは、きっとそこにあるのだと思います。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP2〈大麦であって、小麦ではない!〉、2023年2月、スコットランドにて収録。ポッドキャスト本編:youtu.be/yeC6Vm0r-6o

オークの樹種、樽の分類、そしてシェリー樽の背景にあるスペインの輸出禁止措置まで—— ウイスキーの風味の半分以上を決める「器」である"樽"について、読み解きます。 著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト…

オークの樹種、樽の分類、そしてシェリー樽の背景にあるスペインの輸出禁止措置まで—— ウイスキーの風味の半分以上を決める「器」である"樽"について、読み解きます。
著者 David Hsieh 丹丘蒸留所 主任蒸留士(Master Distiller) ポッドキャスト『Whisky for Pros』ホスト
本記事はポッドキャスト『Whisky for Pros』 EP1〈50%+50%=200%?樽の話〉(2023年1月、スコットランドにて収録) をもとに再構成したものです
ISSUE NO. 01 創刊号 | 著者の言葉
読者のみなさま、こんにちは。
丹丘蒸留所の主任蒸留士、デイビッド・シェイ(David Hsieh)と申します。私はこれまで数年間、スコットランドのウイスキー蒸留所で蒸留士として働き、ポッドキャスト『Whisky for Pros』を通じて、蒸留所の現場で見てきたことや学びをリスナーのみなさまと共有してきました。2025年より、日本・北海道の丹丘蒸留所に加わり、ウイスキーづくりの旅を続けています。 本記事より、私は丹丘蒸留所の「マスター・ディスティラー・ブログ」を執筆することになりました。このブログでは、蒸留士の視点から、ウイスキーの歴史や製造工程、業界の現状、そして実際に蒸留所に身を置いているからこそ見えてくる細かな話をお届けしていきます。さて、第1号へようこそ。 今回は、ウイスキーの味わいの半分以上を決定づける樽、オーク樽から始めたいと思います。
ウイスキーの風味の由来について、業界で広く知られている考え方があります。シングルモルトウイスキーの風味の約50〜80%は、オーク樽と原酒との長期にわたる相互作用によって生まれる、というものです。もちろん、原料、酵母、蒸留工程はいずれも極めて重要です。 しかし、ウイスキーの最終的な個性を決定づけるのは、その後に続く樽の中での長い熟成です。 同じニューメイクスピリッツ(熟成前の原酒)を異なる樽に詰めれば、最終的にはまったく別物のウイスキーのように感じられることもあります。ただし、「オーク樽」と言っても、ひとくくりに語れるものではありません。樹種、産地、そしてその樽がどのような履歴を持つのか——その背景には、複雑に結びついた業界のサプライチェーンがあります。
ウイスキー樽に使われる代表的な木材は3種類あり、樹種、産地、成長サイクルの違いによって、それぞれ独自の風味の個性をウイスキーに与えます。
アメリカン・ホワイトオーク(Quercus alba)は、主にアメリカのテネシー州やミシシッピ州、そのほかの米国各州で生育しています。寒暖差の大きい環境で比較的早く成長し、およそ30年ほどで伐採可能になります。木目はまっすぐで加工しやすく、組織が緻密なため液漏れしにくいという特徴があり、樽製造における主力材となっています。スコッチウイスキー業界で使用されるバーボン樽の90%以上は、この樹種から作られています。
ヨーロピアン・オークは主に2種類あります。ひとつはハンガリーを主な産地とするセシルオーク(Quercus petraea)、もうひとつはスペインやフランスを主な産地とするコモンオーク(Quercus robur) です。後者は、シェリー樽の製造において中心となる木材です。ヨーロピアン・オークは成長が遅く、伐採できるまでに70〜100年はかかるため、アメリカン・オークに比べると収量も大幅に少なくなります。タンニン含有量が高く、ラクトン含有量が低いため、よりスパイシーで、重厚な骨格を持つ風味をウイスキーにもたらします。
日本のオークは モンゴリナラ(Quercus mongolica)とミズナラ(Quercus crispula)が中心で、後者がウイスキー愛好家にお馴染みの「ミズナラ」(水楢) です。ジャパニーズ・オークは産出量が少なく、成長も遅く、ヨーロピアン・オークと同様、伐採可能になるまで70年から100年を要します。木質は脆く加工も難しいのですが、その独特の香気ゆえに大変貴重な存在とされ、希少な樽材として位置付けられています。
アメリカの法規では、バーボンウイスキー(Bourbon)は新品のオーク樽で熟成させなければならないと定められています。また、一度使用したオーク樽は、バーボンの製造に再利用することができません。 こうした"バーボンの熟成に使われた樽"が、スコッチウイスキーの熟成の主力となり、現在では全体のおよそ90%から95%を占めています。
バーボン樽は、アメリカン・スタンダード・バレル (American Standard Barrel、約200L) の形のままでスコットランドへ運ばれる場合もあれば、一度、板材(staves)の状態に分解して輸送し、到着後に現地で、より大きなホグスヘッド(Hogshead/約220〜250L) として組み直されることもあります。
また、バーボンに限らず、テネシーウイスキー(Tennessee Whiskey)をはじめとする他のアメリカンウイスキーで使用された樽も、熟成用として市場に供給されています。こうした樽は、ラベル上ではより広い分類として「アメリカンオーク(American Oak)」と表記されることもあります。
「シェリー樽熟成ウイスキー」と聞くと、「かつてシェリー酒の熟成に使われていた樽」を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際はそれほど単純ではありません。
かつてイギリスでは、シェリー酒の消費量が非常に多く、スペイン・ヘレス(Jerez)地方のボデガ(酒蔵)では、およそ500Lの輸送用樽にシェリー酒を詰め、そのままイギリスへ出荷していました。イギリスで瓶詰めが終わると、それらの空樽はスコットランドの蒸留所に引き取られ、ウイスキーの熟成樽として再利用されていました。これが、いわゆる「シェリー樽ウイスキー」の始まりです。
ところが、およそ50〜60年前、スペイン政府が樽単位でのシェリー酒輸出を禁止したことで、この供給網は一夜にして途絶えました。そこでウイスキー業界は別の方法を取りました。スペインのボデガに対し、ウイスキー向けのオーク樽を特注するようになったのです。
こうした樽には、まず、シェリー酒を詰め、数か月から数年寝かせた後、中身を抜いて空樽の状態でスコットランドへ送ります。現在、スコッチウイスキーで使われているシェリー樽のほぼすべてが、この方法で作られています。
つまり、現代の「シェリー樽」の供給網は、かつての"輸送後に再利用された樽"から、"ウイスキーのために設計された特注樽"へと変化したのです。それぞれが、その時代の業界事情を反映しています。今では、多くのスペインのボデガにとって、ウイスキー向けの樽の製造による収益が、瓶詰めシェリー酒の販売収益を上回るともいわれています。なお、実際にシェリー酒の熟成に使用された樽は、一般に「ボデガ・カスク(Bodega Cask)」と呼ばれます。
シェリーの種類によって、樽がもたらす風味も異なります。代表的なものとしてフィノ(Fino)、マンサニージャ(Manzanilla)、アモンティリャード(Amontillado)、オロロソ(Oloroso)、パロ・コルタド(Palo Cortado)、ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez)、モスカテル(Moscatel)などがあります。
このなかでも、酸化熟成による重厚な個性を持ち、ウイスキーとの相性が特に良いオロロソ(Oloroso)樽が特に多く、スコットランドで使われるシェリー樽の約95%を占めています。
オーク樽は、その使用履歴によってさらに分類されます。ファーストフィル樽 (First-fill cask)は、風味成分を力強く放出し、濃厚な木の個性をウイスキーに与えます。まるで原酒が濃縮された木のエッセンスの中で熟成しているかのようです。 一方、リフィル樽(Refill cask) は、前回の熟成で多くの風味成分をすでに放出しているため、残された成分は少なく、ゆっくりと時間をかけた長期熟成に向いています。これはティーバッグに似ています。2煎目、3煎目になるほど、十分な風味を引き出すにはより長い時間が必要になります。
樽が2〜3回使用されて風味が弱くなった場合、内側を削り、再度トースト(加熱処理)することで、リジュビネーテッド樽(Rejuvenated) として再生できます。いわば、オークにもう一度活力を与えるような工程です。 すでに複数回使用された樽を削り、トーストし、再炭化して「STR樽(Shaved, Toasted, Re-charred)」を作ると、ニューメイクにワイン樽由来の果実の風味を急速に重ねていくことができます。台湾のカバラン蒸留所(Kavalan) は、このタイプの樽を使用していることで広く知られています。
近年広く使われるようになったカスクフィニッシュ(Cask Finishing)とは、主な熟成を終えたウイスキーを別の種類の樽へ移し、比較的短期間で新たな風味の層を加える手法です。
フィニッシングは、数か月という短い期間で明確な個性を加えることができ、同じ樽でフルマチュレーション(全期間熟成)を行うよりもコストを抑えられるため、蒸留所にとって風味設計やブレンドの自由度を大きく広げました。
もちろん、長期間ひとつの樽でじっくり熟成させる方法と比較すると、それぞれのアプローチには個性があり、考え方も大きく異なります。
これらは、ウイスキーの風味を設計する上での、2つの異なるルートと言えるでしょう。
オーク樽はもはや、単にスピリッツを貯蔵するための容器ではありません。
オークの樹種から樽の経歴、産地、そして変化し続けるサプライチェーンに至るまで、それぞれの要素が互いに絡み合い、その積み重ねが、やがてグラスの中で静かに形を成すのです。
著者について
David Hsieh、丹丘蒸留所(Tankyu Distillery)主任蒸留士。これまでスコットランドの複数のウイスキー蒸留所で蒸留士を務める。ヘリオット・ワット大学(Heriot-Watt University)で醸造・蒸留学修士(MSc Brewing and Distilling)を取得。ウイスキー・ポッドキャスト『Whisky for Pros』のホストおよびプロデューサー。同番組は台湾No.1のウイスキー・ポッドキャストです。
丹丘蒸留所について
丹丘蒸留所は、北海道上川郡東川町にある、全国でも珍しい公設民営クラフト蒸留所です。2020年に設立され、蒸留所は2025年8月に開業しました。大雪山の清冽な湧水を使用し、シングルモルトウイスキーとクラフトジンを製造しています。東川町は北海道で唯一、上水道のない自治体であり、その水の純度の高さを物語っています。詳しくは tankyudistillery.jp/ja をご覧ください。
出典
『Whisky for Pros』ポッドキャスト EP1〈50%+50%=200%?樽の話〉、2023年1月、スコットランドにて収録。 ポッドキャスト本編:youtu.be/28mr2CI7t9Y
平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。 このたび、丹丘蒸留所の「雪の窓 ドライジン」が、東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2026(TWSC 2026)におきまして、金賞を受賞いたしましたことを、謹んでご報告申し上げます。…

平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、丹丘蒸留所の「雪の窓 ドライジン」が、**東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2026(TWSC 2026)**におきまして、金賞を受賞いたしましたことを、謹んでご報告申し上げます。
私たちの蒸留所は、昨年8月に正式に開業いたしました。月日の流れは早く、開業から早くも10か月が経ちました。デビュー作である「雪の窓 ドライジン」が、このような栄誉ある評価をいただけましたこと、スタッフ一同、心より光栄に感じております。
「雪の窓」は、ジュニパー、米麹、トドマツ、柚子、ラベンダーなど14種類のボタニカルを、大雪山旭岳の伏流水とともに蒸留した、北海道・東川町生まれのドライジンです。
最後になりましたが、東川町の皆さま、そして開業以来、丹丘蒸留所を支えてくださったすべての皆さまに、心より御礼申し上げます。今回の受賞は、私たちにとって大きな意味を持つ一歩です。これからも、皆さまに喜んでいただけるスピリッツづくりに励んでまいります。
丹丘蒸留所株式会社
平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。 このたびは、弊社公式ウェブサイトおよびオンラインストアが一時的にご利用いただけない状態となり、お客様には多大なるご不便とご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。 過去 5…

平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたびは、弊社公式ウェブサイトおよびオンラインストアが一時的にご利用いただけない状態となり、お客様には多大なるご不便とご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
過去 5 日間、復旧に向けて対応を続けてまいりましたが、このたび公式ウェブサイトおよびオンラインストアが再びご利用いただける状態となりましたので、お知らせいたします。
ささやかではございますが、お詫びの気持ちとして、2026 年 5 月 30 日までの 3 日間、すべてのご注文にご利用いただける ¥200 割引クーポンをご用意いたしました。
クーポンコード: May2026
割引額: ¥200
有効期限: 2026 年 5 月 30 日まで
ご利用先: shop.tankyudistillery.jp
このたびは、復旧までお待ちいただき、誠にありがとうございました。今後とも丹丘蒸留所を何卒よろしくお願い申し上げます。
丹丘蒸留所株式会社
本日 2026 年 5 月 11 日(月)、丹丘蒸留所として初となるシングルモルトウイスキーのニューポット「シングルモルト ニューポット 2026」を、国内 1,500 本限定で発売いたします。120 ml / アルコール分 63 度 / 2,970 円(税込)。公式オンラインショップで購入する → ニューポットとは…

本日 2026 年 5 月 11 日(月)、丹丘蒸留所として初となるシングルモルトウイスキーのニューポット「シングルモルト ニューポット 2026」を、国内 1,500 本限定で発売いたします。120 ml / アルコール分 63 度 / 2,970 円(税込)。公式オンラインショップで購入する →
ニューポットとは、樽熟成を経る前のウイスキー原酒のこと。蒸留器から流れ出たままの、最も純粋な姿です。原料・水・発酵・蒸留に込めた蒸留所の哲学が、何にも覆い隠されることなく、そのまま味わいに映し出されます。
本商品は、将来リリース予定の丹丘シングルモルトウイスキーへと続く「序章」。樽の影響を受ける前の素の声を、グラスのなかでお確かめいただけます。
| | | |---|---| | 製品名 | シングルモルト ニューポット 2026 | | 容量 | 120 ml | | アルコール分 | 63 度 | | 数量 | 国内 1,500 本限定 | | 小売価格 | 2,970 円(税込) | | 発売開始 | 2026 年 5 月 11 日(月) |
香り 芳醇な麦芽香が力強く立ち上がり、こんがり焼いたパンやチーズクラッカーを思わせる香ばしさが幾重にも重なります。やわらかなミネラル感に、穏やかな花蜜の甘やかさが寄り添います。
味わい 瑞々しく生き生きとした口当たりで、爽やかな果実の甘みをほのかな酸が引き締めます。味わいの芯には麦芽の存在感がしっかりとあり、ミルクアイスクリームを思わせるクリーミーな風味が全体を丸く包み込みます。質感はオイリーで厚みがあり、かすかな海藻のニュアンスが奥行きを添えています。
余韻 じんわりとした温かみを伴いながら長く続き、ホットワイン、干し梅、クローブを思わせる風味が広がります。さらに、繊細なミネラル感が余韻の終わりまで静かに残り、味わいに骨格と複雑さを与えています。
丹丘蒸留所のウイスキー製造を指揮するのは、台湾出身の主任蒸留士、デイビッド・シェイです。スコットランド・ハイランド地方のエドラダワー蒸留所で蒸留技師として研鑽を積み、その後スペイサイド蒸留所ではマスターブレンダーを務めました。
「ニューポットの製造過程で下す全ての判断は、将来のシングルモルトウイスキーの姿を思い描きながら行っています。いまグラスの中にあるのは、蒸留所が目指す方向性そのものです。ぶどうを思わせる果実の香りと、麦芽の豊かな旨味が、まっすぐに表れること——それが私たちのウイスキー造りの出発点になると考えています。」
丹丘蒸留所は、2025 年 8 月に北海道・東川町にオープンした、全国でも珍しい「公設民営型」の蒸留所です。大雪山国立公園の麓、旭岳の伏流水と自然のなかで、ジンとウイスキーを造っています。
本日同時にプライベートカスクプログラム 2026 のオーナー募集も開始しました。ご自身の樽でウイスキーを育てたい方は、あわせてご覧ください。
平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。 このたび、マスター・ディスティラー・ブログ第6号「ウイスキー蒸留所を歩いてみる」を、4言語で公開いたしました。 本号では、主任蒸留士のDavid…

平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、**マスター・ディスティラー・ブログ第6号「ウイスキー蒸留所を歩いてみる」**を、4言語で公開いたしました。
本号では、主任蒸留士のDavid Hsiehが稼働中のウイスキー蒸留所を案内します。白い外壁とパゴダ屋根から、モルトビン、マッシュタン、ウォッシュバック、スティルハウス、そしてウェアハウスまで。さらに、糖化・蒸留・樽詰めが同時に進む蒸留士の一日(歩数計は2〜3万歩)を描き、ベルトに携える道具——ライト、ナイフ、マーカーペン、時計、手袋、鋼鉄入りのブーツ——を紹介します。ポッドキャスト『Whisky for Pros』をもとに再構成しました。
丹丘蒸留所株式会社
平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。 このたび、マスター・ディスティラー・ブログ第5号「キルニング・カーブ」を、4言語で公開いたしました。 本号では、主任蒸留士のDavid…

平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、**マスター・ディスティラー・ブログ第5号「キルニング・カーブ」**を、4言語で公開いたしました。
本号では、主任蒸留士のDavid Hsiehがキルニング(乾燥)——発芽を止め、麦芽の酵素を守る工程——を解説します。二段階のキルニング・カーブ(低温の自由乾燥段階と、より高温の減率乾燥段階)をたどり、ビール用麦芽に「チョコレートモルト」を生む高温の固定段階を、なぜウイスキー用麦芽は避けるのかを説明。さらに、キルニングを省いてグリーンモルトのまま仕込めるのか、という問いにも触れます。ポッドキャスト『Whisky for Pros』をもとに再構成しました。
丹丘蒸留所株式会社
平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。 このたび、マスター・ディスティラー・ブログ第4号「ピートの科学」を、4言語で公開いたしました。 本号では、主任蒸留士のDavid…

平素より丹丘蒸留所をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、**マスター・ディスティラー・ブログ第4号「ピートの科学」**を、4言語で公開いたしました。
本号では、主任蒸留士のDavid Hsiehが**ピート(泥炭)**を取り上げます。それが何であり(泥であり石炭でもある堆積物)、世界のどこで生まれ、なぜウイスキーに行き着くのか。「ピート香」の本当の出どころ——ピートそのものでも仕込み水でも樽でもなく、ピートを燃焼させたときに放出されるフェノール類——をたどり、最後に近年スコットランドで議論される問いに触れます。埋蔵量が足りるかではなく、採掘が湿原に何をもたらすのか、という問いです。ポッドキャスト『Whisky for Pros』をもとに再構成しました。
丹丘蒸留所株式会社